新公益法人制度改革のポイント

公益法人担当者の皆様、こんにちは!公益法人専門コンサルタントの伊波です。

本日は、202541日から施行されている「新公益法人制度改革」のポイントを、初任者の方でも分かりやすく解説します。この改革は、公益法人が社会ニーズに柔軟に対応し、その潜在能力を最大限に発揮できるよう、「使いやすい制度」を目指すものです。

目次

1. 制度改革の背景と目的

従来の公益法人制度は、「儲け・貯め込み禁止」の財務規律や煩雑な事業変更手続きにより、潜在力を十分に発揮しにくい課題がありました。

今回の改革は、「公益の増進及び活力ある社会の実現」を最終目的とし、法人の自律的経営を尊重しつつ、透明性・ガバナンス向上で国民からの信頼を得やすい制度を目指します。行政監督も「事前の画一的規制」から「事後の重点的チェック」へと転換されます。

2. 制度改革の主要な3つの柱

今回の改革は、大きく分けて以下の3つの柱で構成されています。

 

(1) 財務規律の柔軟化・明確化

公益法人の活動資金に関するルールが見直され、より柔軟な資金活用が可能になります。

中期的収支均衡原則の導入

従来の「収支相償原則」(公益事業の費用以上の収入禁止)が見直され、「中期的収支均衡原則」が導入されます。これは、公益目的事業の収入と費用を中期(原則過去5年)で均衡させる考え方です。単年度黒字も過去の赤字と通算可能で、将来の事業拡大に向けた資金蓄積が容易になります。現行の収支相償を満たす法人も、中期的収支均衡を満たします。

公益充実資金の創設

将来の公益目的事業の発展・拡充に向け、計画的に積み立てる「公益充実資金」が新設されます。これは従来の「特定費用準備資金」や「資産取得資金」を統合し、複数事業間での資金活用を柔軟にします。積立ては中期的収支均衡の費用とみなされ、計画的積立ても財務規律に適合。目的外での取り崩しは定款に定められた特別手続きが必要です。未認定の新規事業でも、実施が見込まれれば公益充実資金の目的とできます。

使途不特定財産規制の見直し

「遊休財産」から実態を表す「使途不特定財産」に名称変更。保有制限の上限額は、原則過去5年間の公益目的事業費平均に基づき算定され、従来より予測しやすくなります(実績がない場合は実績期間平均)。災害など予見困難な事由に対応する「公益目的事業継続予備財産」は保有制限の算定対象から除外され、その保有理由の公表が義務付けられます。

 

(2) 行政手続の簡素化・合理化

公益法人の事業変更等に関する手続きが簡素化され、より迅速な対応が可能になります。

収益事業等の変更の届出化 収益事業やその他事業の変更が、従来の認定事項から届出事項に変更されます(新設・変更・廃止全て対象)。これにより、手続きが大幅にスピードアップします。

公益目的事業の「軽微な変更」範囲の拡大

公益目的に影響の少ない事業変更が「軽微な変更」とみなされ、行政庁への届出で対応可能になります。具体的には、事業の一部廃止、統合・分割・再編(申請書記載事項に実質的変更がない場合)、緊急事態時の短期間・無償事業などが含まれます。事業計画書記載を前提に、付随事業の追加や受益機会拡大の変更も届出対象です。申請書記載事項も、法人の経営判断で変動する内容は事業計画書に記載することで簡素化され、届出で対応できる範囲が広がります。「チェックポイントに該当する旨の説明」の変更は、変更認定申請不要です。

 

(3) 自律的なガバナンスの充実、透明性の向上

国民からの信頼を得るため、公益法人自らのガバナンス体制と情報開示の強化が求められます。

区分経理の原則義務化

全ての公益法人に「公益目的事業」「収益事業等」「法人運営」の3区分での経理が原則義務化され、資金の流れが明確化し透明性が向上します。ただし、2028年3月31日までに開始する事業年度までは、現行方式での経理も可能です。

外部理事・外部監事の導入 理事・監事に各1人以上の法人外部の人物を義務付け、外部視点でのガバナンス強化を図ります。外部理事は、直近の損益計算書で収益・費用・損失が3,000万円未満の法人は設置義務免除されます(公益事業、収益事業、法人会計、経常外収支含む)。監事にはこの適用除外はありません。法人としては、選任した外部役員者がその役割を適切に発揮できるよう、情報提供その他必要な支援を行うことが重要です。

開示情報の拡充 財産目録等(事業報告書、収支予算書など)が原則行政庁により公表され、国民によるチェック機能が高まります。役員報酬は、理事・監事等ごとの総額に加え、年額2,000万円超の役員については金額と必要性が公表されます。海外送金の有無やリスク対策状況も開示対象。事業報告書には、公益目的事業の実施状況と運営体制充実への取り組みが記載されます。

3. 新旧制度のポイント比較

主要な変更点を一覧で確認しましょう。

変更点 旧制度 新制度
収支の考え方 収支相償原則 中期的収支均衡原則
収益事業の変更 変更認定 届出
余剰財産の名称 遊休財産 使途不特定財産
外部役員 規定なし 外部理事・監事を各1名以上設置

4. 適用開始時期と経過措置

新制度は2025年4月1日(令和7年4月1日)に施行されますが、規律により適用時期が異なります。

2025年4月1日(施行日以後開始の事業年度から)

中期的収支均衡、使途不特定財産、区分経理などが適用。

2025年4月1日(施行日時点)

収益事業等の変更届出化が開始。申請中のものも届出とみなされます。

任期満了後(既存法人の場合)

外部役員導入:全理事・監事の任期満了日翌日から適用。

経過措置

区分経理は、施行後3年間旧会計基準も利用可能。

既存法人の申請書記載事項簡素化は任意で、今後の変更認定時に実施可能です。

 

5. まとめ

今回の制度改革は、公益法人が社会ニーズに柔軟に対応し、より活発な公益活動を展開できるよう、「使いやすい制度」を目指します。行政監督も「事前の画一的規制」から「事後の重点的チェック」へ転換されます。

公益法人担当者の皆様には、本改革の「何が変わり、なぜ変わるのか」を理解することが業務に役立つでしょう。内閣府公益認定等委員会の「公益認定等ガイドライン」改訂版や、今後公開されるFAQ、事例集なども活用し、制度理解を深め、貴法人の適正な運営と公益活動の発展に貢献してください。